明日、7月15日で改正児童ポルノ禁止法の施行から1年が経過します。本日14日で、児童ポルノの性的目的所持の罰則猶予が終わることから、いくつかのサイトではニュースになっていますが、改めてここで児童ポルノ禁止法の概要と問題点について触れてみたいと思います
児童ポルノ禁止法は1999年に成立し、2004年、2014年にそれぞれ改正されています。この法律は「児童の権利を擁護すること」を目的としており、具体的には児童買春の禁止と児童ポルノに関する行為、これらの被害を受けた児童の保護をうたっています
これらの目的について、私は行政としてやるべきことであると思っていますし、必要であれば立法も行うべきと考えています。しかしながら、現状の法律にはいくつかの大きな問題を抱えており、それらの問題について触れておきたいと思います。特に今回、児童ポルノについて、性的目的の単純所持について罰則化という、持っているだけで犯罪者となりえるようになったことから影響は大きいと思っています
以下が、この児童ポルノ禁止法について考えている主な問題点4つです。それぞれ説明したいと思います
- 問題点1 何を持っていると犯罪者となるのかが明確でない
- 問題点2 どう思うかによって犯罪となったりならなかったりする
- 問題点3 エンターテイメントの表現者が萎縮してしまう可能性がある
- 問題点4 知りたい情報が得られなくなってしまう可能性がある
▼ 目次
問題点1 何を持っていると犯罪者となるのかが明確でない
法律では予め、何を侵したら犯罪かを予め明確にしなければなりません。(罪刑法定主義/明確性の原則)しかしながら、この法律では「裸または服を一部着ない児童の写真や動画で、特に性的部位が露出していたり、強調されているもの」を児童ポルノとして定義しています。
このまま考えると、例えば、ティーン男性アイドルの上半身裸の写真などは定義に当てはまりそうです。あるいは、自分の幼稚園の頃の水泳写真などはどうなるのでしょうか。
しかしこれまでの説明では、これらの写真などが児童ポルノとなることは無さそうです。法文を見ると明らかに児童ポルノなのに、実際はそうではない。この法律を見ただけでは、何を持ったら、犯罪者となるのかが、分かりません。これでは、捜査当局の恣意的な判断で、「逮捕」と「見逃し」を選別することになりかねません。
もっと定義を明示してくださいという要望を政府に提出し、本日にもその回答が閣議決定を経てかえってきます。しかし、おそらくゼロ回答でしょう。そして、本当は、法律の目的に照らせば、性的な虐待を受けた時の画像や映像を児童ポルノとするべきなのです。
現行法では、例えば性虐待中の顔のみの動画や、動物の性器を触らせられている写真などは児童ポルノの定義の対象となりません。当初の目的に照らして本当におかしなことです
問題点2 それをどう思うかによって犯罪となったりならなかったりする
今回の単純所持罪については、むやみに児童ポルノを持つことを禁止していますが、罰則がついているのは「自己の性的好奇心をみたす目的」の場合のみです。
しかし、捜査機関は持っていた人の心を読み当てることが出来るのでしょうか。絶対に出来ないはずです。そして、内心の自由は憲法で最大限保証されている自由です。たとえ、あなたが誰かを殺そうと強く思ったとしても、この国の法律ではあなたは罰せられません
また、あなたが自分が子どものころの裸の写真をいくつか持っていたとします。一般的には自分自身の昔の裸に性的好奇心を持つことは少ないですから、あなたは罰せられないでしょう。ところが、国会答弁では、所持していることが明らかで目的や理由が不明な段階でも捜査を行う可能性があるということでした。あなたは警察に捜査されてしまうかも知れません。
また、あなたにとっては児童ポルノではなくても、他人にとっては児童ポルノという場合があります。あなたが持っていたような写真を複数集めているコレクターがいたとします。その写真をコレクターがSNSで勝手にダウンロードしたり、気軽に手渡したりしたら、もしかしたら、あなたは被害者のはずなのに、なぜか児童ポルノの提供罪で罰せられるかも知れません。
実際に国会答弁では、自画撮り画像でも、要件にあうものをネットにアップしたら提供罪が成立しえるとなっています
このように、その対象物をどう思うかで児童ポルノになったり、ならなかったり、本当におかしな法律なのです
問題点3 エンターテイメントの表現者が萎縮してしまう可能性がある
この法律が過去の改正タイミングで大きな反対運動が話題となったのは表現の自由との兼ね合いからです。最初の改正案ではエロチックなマンガやアニメなどの追加規制の検討項目が入っていたことでも大きな話題となりました。
マンガなどのエロチックな表現が気に入らないということは、十分理解できます。しかし、全ての自分の嫌いなものを法律でしばるという考え方は間違っていると思っています。法律はあくまでも最終手段です。出来るのであれば、多様な価値観・文化として許容できる社会が望ましいと思っています。嫌いだからと法規制するということは、たとえ少数派でもそれを好きだと思う人の権利を侵害するからです。
※今回の法規制ではマンガやアニメ・ゲーム・フィギアなどが児童ポルノとなることは原則ありません。
また、同時に表現者の萎縮の問題もあります。問題点1・2にもあったように定義が曖昧であることもあります。また、18才以上の人が18才未満の演技を行うことも萎縮してしまうのではないでしょうか。17才であっても自らの希望で(必ずしもエロティックでない)演技をしたいといっても、法律を考えると萎縮してしまうこともあるかもしれません。
自分の意思で各種イベントに参加している18才未満のコスプレイヤーたちが児童ポルノに該当する自撮りの画像をネット上にあげれば、法律的には被害者(児童)であり加害者(提供者)となってしまう可能性などもあります。もちろん、仮に過激なものであれば、刑法の174条(公然わいせつ罪)で取り締まれば良いだけです。
問題点4 知りたい情報が得られなくなってしまう可能性がある
私は、インターネットは基本的人権だと思っています。インターネットという大発明は知りたい情報をだれでも発信でき、手に入れることが出来るようになった革命です。これは基本的人権として、誰でも自由に使うことが出来るべきものだと思っています。
今回の児童ポルノ禁止法改正案ではプロバイダーに対し、児童ポルノのブロッキングに対する努力義務が課せられています。また、3年後の検討事項として、インターネットの閲覧制限が課せられています。現在でも児童ポルノのインターネット等を使った提供罪については、単純所持より重い罰則がついています。こちらを活用すべきであり、ブロッキングやフィルタリングなどは極力避けるべきです。
インターネットは基本的人権だということは、国民の表現の自由、そして、知る権利を最大限保障することだと思っています。この基本的人権は極めて限定的に制限されるべきであると思っています。
最後に
以上、大きく4つの点に渡って、この児童ポルノ禁止法の概要と問題点をまとめてきました。実は、これ以外にも大きな問題が潜んでいますが、それは下のメルマガや過去記事、毎週水曜日の動画番組「さんちゃんねる」などからご覧下さい。
私は憲法21条(表現の自由と通信の秘密)を守る議員として、これからもがんばって行きたいと思っています。
引き続きよろしくお願い致します。
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●山田太郎略歴(https://taroyamada.jp/?page_id=13)
慶應義塾大学経済学部、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程。
外資系コンサルティング会社などを経てネックステック社を創業、
同社を実質3年半で東証マザーズに上場。その後、参議院議員就任。
東大・東工大・早大などでも教鞭をとり、著書も多数。
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